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デルタ株は2020年12月にインドで初めて発見された新型コロナウイルスの亜種でWHOラベルではB.1.617.2と表記します。
デルタ株は感染しやすい、重症化しやすいと言われていますが、なかなか理解しがたいですよね。この記事ではデルタ株の感染のしやすさについてご説明します。
結論としてはワクチンは「効く」ので、落ち着いてワクチンを受けてください。
新型コロナウイルスの構造
コロナウイルスにはスパイクタンパクというとげとげが外に出ていて、これが王冠ににているため、コロナウイルスという名称となりました。
このスパイクタンパクはウイルスが細胞に感染するときのリガンド(受容体と結合するもの)となり、感染のために非常に重要な場所となります。
新型コロナウイルスはACE2受容体にこのSタンパクが結合して細胞内に取り込まれます。
ウイルスの外側のチューリップのようなのがスパイクタンパク(Sタンパク)、細胞膜(脂質二重膜、黄色の丸が並んでいる部分)表面にあるACE2受容体(緑)にSARS-CoV-2のSタンパクが結合して、細胞の中にエンドサイトーシスと呼ばれる取り込み方で取り込まれて感染が成立します。
これは新型コロナウイルスの遺伝子の構造です。RBDはreceptor binding domain受容体結合ドメインの略です。
この図はSARS-CoV-2新型コロナウイルスとその受容体であるACE2を立体的に表したものです。
a, SARS-CoV-2スパイク単量体の全体的なトポロジー。FPは融合ペプチド、HR1はヘプタッドリピート1、HR2はヘプタッドリピート2、ICは細胞内ドメイン、NTDはN末端ドメイン、SD1はサブドメイン1、SD2はサブドメイン2、TMは膜貫通領域。
b, SARS-CoV-2 RBDの配列と二次構造。
c, ACE2と結合したSARS-CoV-2 RBDの全体構造。ACE2は緑色で示されている。SARS-CoV-2のRBDコアはシアン色、RBM(レセプター結合モチーフ)は赤色で示されている。SARS-CoV-2 RBDのジスルフィド結合は棒で示し、矢印で示す。結合を担うACE2のN-terminal helixにはラベルが付けられている。
こうして立体的に見てみると、変異の入った場所が感染性に影響しそうだなとかと想像できるようになってきます。
これをみると特に、438~506番目のRBM(受容体結合モチーフ)という実際に結合する部位に変異が入ると感染性に影響しそうですよね。
要するに、受容体であるACE2に結合する部位に変異が入り、親和性が増すと、感染力が高まり、病原性が増す、という事なのです。
感染様式について詳しく見たい方は以下をご覧下さい。
また、こうした受容体結合部位やまさに受容体に結合するモチーフであるRBMに変異が入るとどうなるのかと言うと、たとえば指名手配犯が顔面の整形をしたらどうなるでしょうか?
新型コロナウイルスの表面にあって、外来の抗原(異物)だと認識されるための「顔」が変わってしまうため、免疫応答を逃れやすくなる、という説明が一番一般の人にわかりやすいでしょうか?(ちょっと不適切かもしれませんが)
詳しくは以下のページをご覧ください。
新型コロナウイルスデルタ株とは?
デルタ株は2020年12月にインドで初めて発見された新型コロナウイルスの亜種でWHOラベルではB.1.617.2と表記します。スパイクタンパク(Sタンパク)に以下の変異を持っています。
- T19R
- R158G
- L452R
- T478K
- D614G
- P681R
- D950N
太字はリセプター結合部位にあることをさしています。
変異をアミノ酸で表す方法ですが、数字はアミノ末端(N末)のメチオニン(タンパク合成は必ずメチオニンから開始します)から数えたアミノ酸の番号です。遺伝子が変異されたことで変化してしまったアミノ酸の番号の左側はもともとのアミノ酸、後ろ側はが変化してしまったアミノ酸を表しています。アミノ酸はそれぞれアミノ酸記号で表します。
L452Rは、開始コドンであるメチオニンから数えて452番目のL(ロイシン)がR(アルギニン)に変化したことを表しています。
452番目はACE2に結合する受容体結合部位RBDの中にあることが先ほどお示しした遺伝子やタンパクの立体構造からわかると思います。
デルタ株の感染性はどれくらい強いの?
assets.publishing.service.gov.uk/government/uploads/system/uploads/attachment_data/file/988619/Variants_of_Concern_VOC_Technical_Briefing_12_England.pdf これは英国公衆衛生局が発表している資料です。 図2. イングランドにおける亜種の累積症例数を5回目の報告からの日数で指数化したもの、2021年5月18日時点のデータ(このグラフに使用されているアクセス可能なデータは基礎データで確認できます。) 図2からは、VOC-21APR-02(B.1.617.2)の症例が短期間で迅速に発見されたことを示しています。B.1.617.2はデルタ株のことです。
これをみると、驚異的なスピードで感染が広まることがわかりますね。
デルタ株にワクチンはどれくらい効くの?
ワクチンというのは免疫応答の最初の段階を身体に覚えさせる効果しかありませんので、ウイルス感染を予防するものではありません。 ただし、ワクチンは実際に病原体が侵入してきたときに素早く免疫応答できるようにしてくれるため、重症化を免れることができるのです。 それでは、実際にデルタ株に対するワクチンの有効性を検討した論文を見ていきましょう。 www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa2108891
B.1.617.2(Delta)変異体に対するCovid-19ワクチンの有効性
背景
コロナウイルス2019(Covid-19)の原因ウイルスである重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)のB.1.617.2(デルタ)変異体は、インドでの患者急増の原因となり、現在ではイギリスでの患者増加が顕著になるなど、世界中で検出されています。この変種に対するBNT162b2(訳者注:Pfizer/BioNTech)およびChAdOx1(訳者注:AZD1222アストラゼネカ)nCoV-19ワクチンの有効性は不明であった。
研究方法
テストネガティブケースコントロールデザインを用いて、デルタバリアントが流通し始めた期間に、デルタバリアントまたは優勢株(B.1.1.7、またはアルファバリアント)による症候性疾患に対するワクチン接種の効果を推定した。変異体は、シークエンスを用いて、スパイク(S)遺伝子の状態に基づいて同定されました。イングランドのCOVID-19の全症状例に関するデータを用いて患者のワクチン接種状況に応じたいずれかのバリアントを持つ症例の割合を推定した.
結果
ワクチン(BNT162b2またはChAdOx1 nCoV-19)を1回接種した後の効果は,α株の人(48.7%,95%信頼区間[CI],45.5~51.7)に比べ,δ株の人(30.7%,95%信頼区間[CI],25.2~35.7)で顕著に低かったが,この結果は両ワクチンで同様であった.BNT162b2ワクチンでは,2回接種時の有効性は,α株の人で93.7%(95%CI,91.6~95.3),δ株の人で88.0%(95%CI,85.3~90.1)であった.ChAdOx1 nCoV-19ワクチンでは,2回接種時の有効性は,α株の人で74.5%(95%CI,68.4~79.4),δ株の人で67.0%(95%CI,61.3~71.8)であった.
結論
ワクチンを2回接種した後、アルファ型と比較してデルタ型ではワクチン効果にわずかな差しか認められなかった。ワクチン効果の絶対的な差は、1回目の接種後により顕著であった。この知見は,2回接種でワクチン接種効果を最大化する努力を支持するものである.(英国公衆衛生局(Public Health England)から資金提供を受けています。)
新型コロナワクチンでデルタ株による重症化を防げるの?
重症化を防げる、という論文はまだないのですが、「入院」をエンドポイント(臨床試験の効果の指標)にした論文ならあります。 先ほどの論文を書いたグループがさらに、入院をエンドポイントとしてデルタ株に対するワクチンの効果を検討した論文がプレプリント論文としてネットにありました。こちらはプレプリント論文でまだ査読を受けていない段階ですが、ワクチンがデルタ株感染による入院にどう有効なのかをみていきましょう。
入院に対するCOVID-19ワクチンの有効性 デルタ(B.1.617.2)変異体の入院に対する有効性
最近,Delta(B.1.617.2)バリアントを用いた症候性疾患に対するワクチン効果(VE)の推定値を報告した(1)。
ワクチンでは88%、アストラゼネカ社のChAdOx1 AZD1222ワクチンでは67%に達した。これは、ワクチンによる防御力が多少低下しても、Deltaに対する効果は維持されるという重要な証拠となった。
しかし、この亜種が出現したのはごく最近のことであり、症例数も比較的少なかったため、重症化に対するVEを推定することはできなかった。他の亜種では、ワクチンは軽症に比べて重症に対してより高いレベルの防御をワクチンが提供することがわかっている。入院などのより重篤なエンドポイントに対する有効性を理解することは、デルタ株に対する薬剤以外の介入(訳者注:たとえばロックダウンとか)を緩和した場合のリスクを評価する上で重要である。 Deltaは、英国を含む世界的に広がり続けており、症例の一部はより重篤な疾患や入院に至っています。ここでは、BNT162b2およびChAdOx1ワクチンのDeltaに対する有効性を評価した。
2021年4月12日から6月4日の間に発症した全症例を、Emergency Care Dataset (ECDS)にリンクさせた。その結果 陽性反応が出てから14日以内の入院(傷害を除く)を対象とした。cox proportional cox比例ハザード生存分析により、ワクチン接種の有無による入院のリスクを推定した。年齢、臨床的に極めて脆弱なグループ、民族、検査週を調整した。 テスト陰性のケースコントロール分析(1)で得られた症候性疾患のオッズ比(OR)を、入院のハザード比(HR)と合わせて算出した。症状のある症例における入院のハザード比(HR)を組み合わせて、
VE = 1 – (OR symptomatic disease x HR hospitalisation)
という計算式で、入院に対するワクチン効果を推定した。 解析対象となったデルタの有症状症例は14,019例で、そのうち166例が入院した。ワクチン接種を受けた人と受けていない人を比較した場合、デルタ株感染者の入院に対する全体のハザード比はいずれかのワクチンを1回接種した場合は0.37(0.22-0.63)、2回接種した場合は0.29(0.11-0.72)であった。
訳者注:ハザード比0.37はワクチンを受けていない場合に比べてリスクが0.37となっているという事。後ろの()内の数字は信頼区間といってその中にハザード比が含まれていたら統計的に信用できる、という意味です。ざっくりいうと。
これに対し、アルファ株は1回接種で0.44(0.28-0.70)、2回接種で0.64(0.24-1.72)であった。 入院に対するワクチン効果VEはAlphaと同様であった。 1回の投与で94%(46~99)、2回の投与で96%(86~99)であった。 99)、ChAdOx1の1回投与で71%(51-83)、2回投与で92%(75-97)であった(表)。 (となった(表)。) これらの結果は、いずれかのワクチンを1回または2回接種した場合、Delta株による入院を非常に高いレベルで防ぐことができることを示している。
デルタ株はウイルス量1000倍
デルタ株はPCRで陽性になるときには従前株と比べて1000倍の濃度であることが報告されています。
受容体との結合力が増していて、それだけでも感染力が高いのに、PCRで陽性になる時点のウイルス量が1000倍ということは、さらに感染力が高まります。
感染経路に対する概念も変更|空気感染
また、新型コロナウイルス自体が空気感染だということも明らかになってきているので、みなさま、本当にお気をつけてお過ごしください。
まとめ
みなさん、マスコミの情報は本当に偏っています。医者でもだまされてワーワーピーピーいう人が多くて本当に困ってしまいます。 だまされないようにちゃんとファクトチェックしてくださいね。 皆様がお健やかに混乱なく過ごせるよう、これからもできる範囲で発信していこうと思いますので、よろしくお願いいたします。 この記事に納得された方は是非、ワクチンをお受けください。あなたとあなたの愛する人を守るために。よろしくお願いいたします。
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